「山門水源の森」生態系保全シンポジウムの報告

みんなで守ろう!水源の森100選「山門水源の森(上の荘の森)」

平成13年5月12日(土)・13日(日)






湖国21世紀記念事業市町村活動

「山門水源の森」生態系保全シンポジウム
12日:山門湿原の森の自然観察会(参加者250名)
13日:基調講演&パネルディスカッション(参加者:約150名)


 13日は、西浅井町公民館でシンポジウム 150名の参加でした。
 この日の午前中は、4つの基調講演がありました。この講演は、午後のパネルディスカッションの主題である「山門水源の森の保全をどうするか」の論議を活発に進めるために企画されたものです。講演内容は、「山門水源の森の森に魅せられて15年」(藤本氏)、「山門湿原から見えてきた過去の植生・気候・人間活動」(高原氏)「里山」(牛場氏)の4題でした。

 この講演をうける形で午後は、「今後、山門水源の森とその湿原をどう守っていくのか」をテーマに行われました。主たる意見では、世界的な場で保全運動を展開しておられる中池見湿地トラスト代表の笹木氏の「山門水源の森は、地域住民、行政、引き継ぐ会、研究者がスクラムを組んで保全に立ち上がっておられるのがうらやましいし、素晴らしいことである。」とのおもはゆい発言に関係者は、褌を締め直さねばとの思いでありました。
 また「湿原の遷移を考えると、ひとつ山門湿原だけではなく、もっとグローバルな地球の気候とか酸性雨とかの問題も念頭に置く必要がある」との寺井氏の発言には、どうしても狭い視野で考えがちな我々にとっては示唆に富むものでありました。加えて「ラムサール条約に追加登録する」ことも念頭に置くべきではないかとのご意見にも、その手があったかと思い知らされた次第です。
保全はこれからが正念場。皆さんの絶大なるご支援を重ねてお願いいたします




「山門水源の森」生態系保全シンポジウムの報告
 講演の内容は当日配布した資料をご覧ください。
以下はこの日論議された点や、参考になる提言等について報告します。これは西浅井町の6月号広報の原稿を参考にさせていただきました。


●パネラー&質問者(順不同)
 村上宣雄(総合司会・山門水源の森連絡協議会)
 藤本秀弘(山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会)
 竹端康二(地元生産森林組合)
 松室美法(山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会)
 高原光(京都府立大学)
 寺井久慈(中部大学)
 島脇与志雄(西浅井町長)
 中川仁男(滋賀県林務緑政課)
 牛場雅己(環境省)

●保全について
●問題点は何か ●監視体制について
●保全の方向性 ●総 括

保全について

 島脇与志雄(西浅井町長)
 森を環境学習の場にしていきたい。21世紀は環境、福祉、教育行政を柱に取り組みたい。森やみずうみの保全、ゴミの問題を環境と捉え行政に取り組みたい。西浅井町では、バブル期に2つのゴルフ場計画があった。1つは、この森一帯で、現在は滋賀県に買い取っていただき、整備もしていただいている。もう1つは集福寺地区で、乱伐の恐れがあったことなどから、今年3月に、町で山全体を買い取り、環境保全林として守っていこうとしている。

 牛場雅己(環境省)
 山門水源の森とその湿原を保全していく際に、アンタッチャブルな(触れられない)自然ではなく、自然とふれあい、体験して、自然の恵みや大切さを理解することが、保全意識の普及・啓発や里山の適切な管理につながっていく。
 環境学習には、自然学習もあれば、地球温暖化、ゴミ問題等、様々なものがあるが、自然とのふれあいでは、知識を得るだけではなく、
レクリエーション、情操教育、あるいは生活を豊かにするといった捉え方も大切。

 藤本秀弘(山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会)
 山門湿原には15年間、通算して200回ほど来ているが、地元の先祖の人がかつて仕事で山に入っていた頃に換算すると、1年にも満たない。県がこの土地を公有化したということは、県民の立場からすると、見る、あるいは知る権利があるから、公開するという考えは理解できる。しかし、このことと、保全とは必ずしも両立しない。この点が大変難しいところである。
 人が保全に向けて何らかの施策を実施したり、行動を起こした時には、自然はすでにその先を進んでいることが多い。我々のやってきたことは、ともすれば応急処置ばかりではなかったか。先を見据えた保全というものをあまり考えていなかった。もう1つの問題として、保全が、ややもすると地元抜きで行われている可能性がある。外からやって来て、「きれいだから残せ」という論理がある。

 竹端康二(地元生産森林組合)
 昔は、山門湿原を「大池」・「小池」と呼んでいた。この山一体はかつて炭焼きをしたり、わり木を作っていた。地元の年配の人に話を聞いても、湿原を詳しく見に行った者はなかった。以前は、この山一体は上の荘(かみのしょう)の共有林で、昔は入札をしてわり木を作っていた。炭やわり木は船で大津や近江八幡へ燃料として出荷していた。燃料が石油などに変わっていく中で、だんだんと山に入らなくなっていった。
 湿原には、もっと水があった。木も生えない湿原は、どちらかといえば「やっかい者」という認識だったが、大変貴重な自然環境であるという話を聞くようになり、驚きもし、また、「どうやって保全していこうか」というように、地元のみんなの意識も変わり始めている。

問題点は何か

 藤本秀弘(山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会)
 山門湿原には、大きく分けて4つの重要な視点がある。
1つ目は、この湿原には3万年の永きにわたる歴史があり、2つ目には、植物地理学的にも価値が高い、3つ目には、昔から地元の人の生活の場であった、すなわち文化財的な価値がある。4つ目には、感性、つまり情操教育の場として、子供たちが生き物の仕組みを簡単に学ぶことができるというものである。
このようなことから、この湿原はぜひとも保
全していく必要があると考えている。
 かつて、山門一体にゴルフ場の計画があった。バブルがはじけて計画が中止になり、県が公有化した。当時、県としては林務行政という観点だけで、「湿原」という視点はなかったのではないか。当初の整備の計画では、湿原のぎりぎりのところに柵を設置し、散策道を整備することになっていた。見物する者にとってはよいが、多くの人が湿原の際を歩くことで土砂が湿原の中に流入して、湿原が駄目になってしまう危険性があり、県と話し合いをする中で現在の形態になった。しかし、山手のところは状態もよいが、展望台のところの水際は、人が最も多く集まるところでもあり最も状態が悪くなっている。 今後、大々的に人が訪れるようになれば、湿原は守りきれないだろう。しかしながら、 公開はとめられないという現状であり、どのようにして保全していったらよいのか、みんなで考えなければならない。容易に利用できる自然をどう守っていくのか、保全に必要な資金や物資をどう調達していくのかという問題がある。良案もなく、苦しい現状である。

 中川仁男(滋賀県林務緑政課)
 戦後からの国の政策として、森林を経済活動としての林業として見てきた経緯は否定できない。県としても正直、湿原への意識は低かった。しかし現在では、水源の森百選として購入したので、貴重な資源であるという認識のもと、意識の改革を含めて、保全していかなければならないと考えている。

 高原光(京都府立大学)(会場より)
 山門湿原に貴重な植物があるということを既に多くの人が知っている。盗掘対策が必要。歩くことで土砂が流入する影響が心配である。かといって山の上から見るだけでは、楽しくない。できれば可能なところからの観察ができるようにすべきだが、100人、200人という人間が一時に入るのは好ましくない。土砂の流入は湿原にとって致命的である。人数、グループ制限を設けてはどうか。
  笹木智恵子(敦賀市中池見湿地トラスト)
 福井県の池河内(いけのこうち)は自然環境保全地域として保全を行っており、ラムサールへの登録を検討している。山門水源の森の場合も、自然環境保全地域として保全していくのがよいと考える。池河内は山門とは兄弟のようなもの。同じ内陸湿地として、手を携えて守っていかなければと思う。

監視体制について

 牛場雅己(環境省)
 1つの例として、監視カメラを設置し、その様子をホームページ上で公開し、プレッシャーを与えてはどうか。

 松室美法(山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会)(会場から)
「山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会」を有志で発足。昨年から毎週土日にパトロールを実施している。山で出会う人に声をかけたり、パトロールの記録をしているが、それぞれ職業を抱え、いつもパトロールできるわけではない。これまで県、西浅井町、地元、我々の4者がいろんな話し合いをしてきたが、保全の方向性や方法はまだ見つかっていない。とにかくパトロールが精一杯で、それ以上のことはできていないのが現状である。

保全の方向性

 寺井久慈(中部大学)
 行政、ボランティアによる現在の取り組みだけでは、守りきれないのではないか。県レベル、国レベルでの対応を働きかける必要がある。そこで私としてはラムサール湿地への登録を提案したい。ラムサール条約といえば一般に渡り鳥を保護するための条約と考えられてるが、1999年開催のラムサール会議では、特に渡り鳥にこだわらずに、大切な湿地はできるだけ保全する方向が確認されている。既に琵琶湖全域が1993年に登録されてるし、その延長として登録することは、それほど難しいことではないと思う。現に、釧路湿原も1980年に登録湿地となり、その後、湿地周辺の湖や沼も追加して登録されて
いる。山門水源も西浅井町という一地域にある貴重な自然というだけでなく、ラムサール湿地に登録し、国全体として保全する方向性を提案したい。
 もう1つは、湿原なり、森なり、その場所だけを守っていては、守りきれないのではないか。東京や大阪といった都市部から汚れた空気が流れ込んでくる影響に着目する必要があると思う。
 最近は自動車の排ガスによる窒素酸化物からできる硝酸性の雨が増えている。これを抑えないかぎり、空気のきれいな湿原にもどんどん窒素肥料がまかれるという状態になり、湿原の生態系に影響を及ぼすことになりる。都会で自動車の排ガスをたくさん出して、この湿原の環境を守ろうとしても、限界がある。都市部の環境も考えながら、湿原の環境を守っていく必要がある。

 島脇与志雄(西浅井町長)
 西浅井町は滋賀県で 一番酸性雨がひどいというデータがあるが、ラムサール湿地への登録を一度、提案してみたいと思う。 里山は、これまで「業」としての林業という捉え方であったたが、守るべきところは守る、業として成り立つところは業として取り組む、そして、保健休養としての活用が基本となるだろう。以前は、「自然では飯は食えない」という意見があったが、「自然と共生し、関わり合ってどう生活していけるのか」ということに町民の皆さんも目覚めてきてもらっていると感じている。西浅井町の第4次総合計画や第3次国土利用計画でも、10年前とは180度、発想を転換し、環境保全の視点を打ち出したものになっている。

 中川仁男(滋賀県林務緑政課)
 人が入らなくなった里山をどうしたらよいのかということで、森林ボランティアが注目されている。現在、国内には800〜1,000のボランティアグループがあるといわれている。今までは、地元の所有者が里山を守ってきたが、それでは守りきれないということで、ボランティアと地域住民、行政が関わって、よりよいシステムを構築する試みがあり、実際、成果をあげている例もある。
滋賀県でも、「淡海森林クラブ」を組織し、ボランティアを募り、それぞれが地域で活動をされている。そういった組織との連携を視野に入れながら、取り組みができるのではないか。
 今まで森林は、木材生産の場という考えが主流だったが、これからは多様な森林を作っていく必要がある。いろんな人の意見を聞きながら、計画段階から関わってもらいながら進めていくという機運が高まっている。
そういった意味で、山門も地元の人の関わりが非常に大切である。地元、行政、ボランティア、特にボランティアが楽しみの部分を保ちながら、継続して関わっていけるシステムを話し合いながら作っていくことが非常に大切だ。

総 括
 村上宣雄(山門水源の森連絡協議会)
 今日は、町、県といった行政と民間との新しい合意形成、パートナーシップが必要という提言もあった。森の保全では、今までと違ったスタイルで、「みんなが意見を出し合って、話し合う中で進めていく」という、これからの時代の新しい試みが始まったと言える。このシンポジウムをきっかけに、次のステップを踏み出せればと思う。お互いに力を出し合いたい。

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